|
|
---ウグイ---
海とその生物にまつわる諺や格言についてお話ししましょう。
今回は、海生研でも試験生物として度々利用しているウグイ(コイ目コイ科ウグイ亜科ウグイ属、学名:Tribolodon hakonensis)をご紹介します。
ウグイは、一般的には淡水魚として知られていますが、海に下るタイプもおり、前者は淡水型と称され一生を河川等に生息し、後者は降海型と称され一時期を海で過ごします。北に行くほど降海型が増える傾向があります。日本では、北海道、本州、四国、九州に分布しています。酸性の水に強い耐性を持つ魚としても知られており、強酸性㏗3.5~4.0の青森県恐山の宇曽利山湖(イラスト参照)でも生息できる唯一の魚として確認されています。春から夏にかけて産卵し、北に行くほど時期は遅くなります。群れを組んで泳ぎ、雑食性で昆虫やミミズ、藻、小さな魚、魚の卵、甲殻類、腐肉など何でも捕食します。
ウグイ原種に加え、近縁種にエゾウグイやマルタウグイ、ジュウサンウグイ、ウケクチウグイなどがそれぞれの地域に分布しており、さらにこれらとウグイ原種の交雑種も存在します。生活史もそれぞれ多様で、形態的な差異も大きいため、分類調査には大変な労力が掛かります。
最大50センチと比較的大型の魚体となり、主に秋から春にかけて漁が行われています。秋から冬に漁獲されると素焼きにされ干されてから甘露煮になります。天然魚だけでなく内陸部では養殖業も営まれています。春から初夏にかけての産卵期のものが、最も評価が高く、人気があります。人工的に作られた産卵場に集め、成熟した魚体のみ漁獲する福岡県や長野県の「つけ場漁」、栃木県の「瀬づき漁」などは、貴重な観光資源にもなっています。
また、ウグイは、釣り魚としても人気が高く、いろいろな餌に食いついてくるため、古来より釣り人たちにはなじみが深い魚です。泳がせ釣り用の生き餌として釣られたり、スピナー等を使うルアーフィッシングやフライフィッシングでも釣られています。小さなサイズでもヤマメ、イワナよりも強い引きが特徴ですが、渓流釣りの世界では微妙な引きを嗜むものらしく、むしろ外道として扱われているようです。 |
|
ウグイがハリ掛かりすると強く引いて深く潜る。但し、それは一度だけ。このとき糸が切られない限り相当の大物でも自分の魚になる。ウグイを合わせた後の竿のさばき方の教え。
「ミャク釣り」とは、ウキを付けず、目印とオモリを付け、常に竿を上下させ、糸を通して直接手に響いて来る脈(魚信=アタリ)やノリ(乗り)で釣る方法。釣りは合わせが最も肝心。魚信があったら一瞬竿先を送り込んでから手前に強く引いて合わせる。魚信があるのに釣れないのは、合わせ時が遅いからである。
二階堂清風編著「釣りと魚のことわざ辞典」東京堂出版より転載。
有孔虫① ~古海洋学の花形 |
有孔虫は炭酸カルシウム(CaCO3)の殻(外骨格)を持つ単細胞の動物プランクトンで、そのほとんどが海洋に生息しています。生活様式により海中を漂う浮遊性有孔虫と海底を移動する底生有孔虫に分けられます。化石記録によれば底生有孔虫は少なくとも5億年前から存在し、ジュラ紀前期(約1億8千年前)からは海洋表層にも生息範囲を拡大し、浮遊性有孔虫が出現しました。現代に生息する浮遊性有孔虫の種数は確認されているもので約40種と意外に少ないのですが、底生有孔虫は約4000種存在し、化石も合わせると浮遊性と底生で合わせて約3万5千種以上が存在します。私たちに身近な有孔虫としては、沖縄土産の星の砂(正体は底生有孔虫の一種Baculogypsina sphaerulata)、山口県秋吉台の石灰岩(古生代に生息していた有孔虫であるフズリナが固まったもの)、エジプトのピラミッドの建材に使われている石灰岩(貨幣石と呼ばれる有孔虫で構成されている)等が挙げられます。
有孔虫もまた、多様な殻の形状から種を同定でき、地層中に出現する種によって地層の年代や当時の環境を推定することができます。有孔虫の一番の魅力は、放散虫や珪藻のケイ酸塩に比べて炭酸カルシウムの殻の化学分析が容易であることと、肉眼でも見えるほどサイズの大きなものが多く、単離しやすい点にあります。有孔虫は炭酸カルシウムの殻を形成する際に海水中の炭酸水素イオン(HCO3−)の他、海水中の微量元素を取り込むため、殻を化学分析することで生息していた当時の環境情報を引き出すことができます。特に、有孔虫の殻に含まれる酸素同位体比からは過去の水温や氷床の量を推定することができるため、古海洋学(過去の海洋環境及び気候変動の歴史を解読する学問)の発展に多大なる貢献を果たしました。
(中央研究所 海洋環境グループ 池上 隆仁)
西部北太平洋のマリンスノーから拾い出した
浮遊性有孔虫の骨格(実体顕微鏡で撮影) |
|
|