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---アワビ---
海とその生物にまつわる諺や格言についてお話ししましょう。
今回は、アワビ(原始腹足目ミミガイ科アワビ属、和名:鮑、英名:Abalone)をご紹介します。
日本周辺で漁獲されるアワビ類の内でアワビと呼ばれる種は、冷水系のエゾアワビ、暖水系のクロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビです。
主な漁法としては、海女、海士による素潜り漁と、船上から箱メガネで海底を覗き、鈎、たも、鉾などで引っかける見突き漁があります。アワビは高級食材で、コリコリした歯ざわりが特徴で刺身、水貝、酒蒸し、ステーキ、粥などに調理される他、干しアワビとして中華料理で食されます。
アワビの旬は夏で、夏の季語となっており、松尾芭蕉の「初花に伊勢の鮑のとれそめて」や西東三鬼の「太陽へ海女の太腕鮑さげ」などがあります。
現在、アワビは、水産試験場、漁業協同組合等で種苗生産が行われており、人工飼料や海藻のアラメ等を餌として与えた場合には、殻が青~緑色になっており、成貝となってもこの色が消えることはなく、放流したものと天然物の区別ができます。海生研では以前にアワビの稚貝にノリを与えて、天然に近い色になる実験を行ったことがあります。
(詳しくは海生研ニュース92号(平成18年10月発行)の「アワビ、ノリ色に染まる」をご参照ください。)
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丁重に、または進んで物を与える意思を表すこと。「熨斗を添える」ともいう。元来の意味は、その品物がけがれのない新品を表し、さらに縁起の良さを添えるのに精進でないアワビを生臭物の代表として用いたもの。
一見、似て非なる言葉に「熨斗鮑を添える」というのもある。こちらは自主的に快く物を贈るのではなく、相手から強いられてやむを得ず、その物を譲る場合に用いる言葉。
アワビは巻き貝なのに二枚貝と見誤り、片側にしか殻がないので、片思いの恋にもじっていう言葉。「鮑の貝の片思い」ともいう。「片貝の合わぬ身」がアワビの語源という。アワビの別名は「海の怠け者」。動きが鈍く、夜しか餌を食べないことに由来する。
アワビは昔から高級な扱いを受け重要な海産物であった。また、11世紀の前後から朝廷への献上物として採り上げられたが、輸送事情の悪い頃なので「干し鮑」とした。これなら長距離輸送や長期保存が可能だが、大変に硬いので、食べるときにこれを長く熨(伸)して軟らかい「熨斗鮑」とし、酒宴、特に武士の出・帰陣の儀式の肴にした。それ以降、長く熨(伸)すは、延す、すなわち、延命長寿、発展、永続などの縁起に引っ掛けて、祝意を表すために進物に添えるようになった。
金田禎之著「四季のさかな話題事典」東京堂出版、
二階堂清風編著「釣りと魚のことわざ辞典」東京堂出版より転載。
調査航海こぼれ話(深海に眠る小さなメッセンジャー) |
青森県下北半島沖約30マイルにて。栄養豊富な親潮と、暖かい津軽暖流がブレンドするこの海域は絶好の漁場として有名です。それを物語る様に、春の海水は豊富なプランクトンを透かし、緑がかった濁った色です。今、水深1250mから海底の泥が採集されました。緑がかった灰白色、触れてみるとひんやりとして、まるで粘土の様な滑らかな感触です。少し、腐った卵の様な臭いがあり、ちょっと汚くも思えます。陸の土とはずいぶん趣の違うこの泥はどこからやってきたのでしょう?
0.1mm位の細かな篩いにかけると、小さな小さな白い粒子が沢山現れます。それを顕微鏡下で観れば世界は一変!渦を巻いたり、葉っぱやブドウの房の様であったり、白く精密な姿は、大理石や白磁の芸術作品を思わせます。
これらは、カルシウムの殻を作るプランクトン、有孔虫の遺骸(いわば骸骨)です。石灰岩質の地層の一部に化石として観られる事でも知られ、様々な姿や、骨格に含まれる物質などが生息環境を反映していることから、地層の起源や、堆積しつつあった昔の環境を知る事が出来る生物として注目されています。
深海の底は、プランクトン達のお墓。静かに眠る遺骸達は、我々の住む環境を未来に伝える「小さな小さなメッセンジャー」と言えるのかもしれません。
(中央研究所 海洋生物グループ 稲富 直彦)
(年間約3カ月にわたる海水、海底土採取航海※の日誌から)
※海生研は毎年、全国の原子力施設の沖合において海洋調査を行っています。
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