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---申(猿)にちなむ魚たち---
海とその生物にまつわる名前の由来についてお話ししましょう。
今回は、今年の干支である申(猿)にちなんだ魚をご紹介します。
サルボウガイ(学名:Scapharca kagoshimensis)は、フネガイ目フネガイ科の二枚貝で、東京湾から有明海、ロシア沿海地方から韓国、黄海、南シナ海の潮下帯上部から水深20mの砂泥底に生息しています。殻幅は5cm前後で、膨らみが強く、殻の表面には32本前後の放射肋(殻頂から放射状に広がる顕著な隆起線)があります。また殻の表面には黒褐色の粗いビロード状の毛で覆われています。
サルボウとは「猿頬」を指し、猿が食べ物を口に含み頬を膨らませる様子を言います。そのプックリ脹れた猿頬のような形状から名づけられました。また一説には、その身の色合いが猿の頬のように赤いことに由来しているそうです。
古く縄文時代から重要な食料とされたほか、貝殻は貝輪などの装飾にも利用されていたようです。現在では、酒蒸しや炊き込みご飯、煮物や佃煮などで食されるほか、缶詰の「赤貝」の原料として利用されています。
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サルエビ(学名:Trachysalambria curvirostris)は、十脚目クルマエビ科のエビで、日本沿岸を含むインド・太平洋の熱帯から温帯域にかけての水深20~30mの泥質底に生息しています。体長はオスよりもメスの方が一回り大きく11cm程度になり、額角(眼と眼の間にある角)もオスよりも長く上方に反っています。表面が細かな毛で密に覆われた体は、全体的に灰褐色でやや強く赤味を帯びており、猿の顔を連想させることから、その名がついたようです。
主に小型底引き網により瀬戸内海や四国、九州沿岸で漁獲されるサルエビは、東日本よりも西日本で焼いたり、揚げたり、茹でたりと、様々な形で食されています。また、干しエビや甘露煮、えび煎餅などに加工されるほか、マダイ釣りの餌としても利用されています。
ダルマオコゼ(学名:Erosa erosa)は、カサゴ目オニオコゼ科の魚で、東京湾以南の西太平洋や東シナ海、南シナ海、東部インド洋、オーストラリア北部などの沿岸部、水深90m以浅の岩礁域やサンゴ礁域周辺の礫・砂底に生息しています。名前のとおり、体長15cm程度になるその体型は太く短くずんぐりとしており、特に頭部は大きく丸く、正面から見ると大きな口がへの字に閉じられた姿は、まさに達磨さんの様です。体色も淡赤色から赤褐色、黄褐色、茶褐色など、個体によって変化に富んでいます。
このダルマオコゼ、英語ではモンキーフィッシュ(Monkey fish、猿の魚)と呼ばれています。日本では達磨さんに見えた正面姿が、海外では猿の顔を連想させたようです。しかし、ユーモラスな姿形とは裏腹に、背びれの棘には非常に強い毒があり、刺されると激しい呼吸困難を引き起こします。また摂餌方法も、海底でじっと動かず、近づいてきた小魚や甲殻類などを大きな口でひと呑みにします。
化学物質の海生生物への影響を調べる(4)―稚魚を用いた初期生活段階試験の検討― |
化学物質に対する感受性が高く、ハンドリングに比較的強いことから、毒性試験に用いる海産魚として多くの適性を有すると考えられるプテラポゴン・カウデルニィ(テンジクダイ科)[前号参照]を用いて初期生活段階毒性試験を実施し、試験法の有用性を検討しました。魚類急性毒性試験では、生死を指標として毒性値を把握しますが、初期生活段階毒性試験では、正常に孵化するかどうかや成長に影響がないかなどを指標に毒性値を把握します。初期生活段階毒性試験は、急性毒性試験と比較してより低濃度での毒性影響を把握できます。
化学物質の1種であるトリブチルスズ化合物を含んだ海水が入った容器に受精7~8日後(発眼後)の本種の卵を入れ、1日1回試験水の全量を交換しながら44日間保育および飼育を行いました。体長や体重の測定結果から成長に影響が見られなかった最も高い試験濃度(最大無影響濃度)を算出したところ、トリブチルスズ化合物の最大無影響濃度は急性毒性試験で得られた96時間半数致死濃度の15分の1程度であることが分かりました。
(中央研究所 海洋生物グループ 岸田 智穂)
発眼後のプテラポゴンの卵。
直径は、3mm程度。 |
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孵化前(右)と孵化後(左)の試験風景。
卵は容器内の卵保育ネットに入っている。 |
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