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---亥(猪)にちなむ魚たち---
海とその生物にまつわる名前の由来についてお話ししましょう。
今回は、今年の干支である亥(猪)にちなんだ魚をご紹介します。
テングダイ(学名:Evistias acutirostris)は、スズキ目カワビシャ科に属する魚類で、主に相模湾以南や小笠原諸島など、暖かい海域の水深40~250m程度の岩礁域に生息しています。体長は50cm程度になり、体高がとても高く、強く側扁しています。体色はクリームがかった白地にはっきりとした暗褐色や黒色の横縞模様があり、背びれがとても大きく、他のひれと同じく黄色く、目を引きます。そして何よりも特徴的なのは、名前の由来にもなった天狗の鼻のように飛び出した口先(吻)です。
このテングダイ、英語ではバンディッドボアーヘッド(Banded boarhead、縞模様の猪頭)と呼ばれています。日本では天狗の鼻に見えた口先が、海外では猪の鼻を連想させたようです。飛び出した口先(吻)が、日本のみならず海外でも「鼻」に見立てられているのは、なんとも不思議ですね。
ユーモラスな姿かたちとは裏腹に、上質な白身は癖がなく、刺身や塩焼き、煮つけなどで食されます。脂は甘味があって濃厚な旨味があり、大変美味しいそうです。しかし流通量が少ないため、一般にはなかなか手に(口に)入らないかもしれません。
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次は猪の親戚の豚です。「海豚」と書いて、何と読むでしょう?! 答えは、イルカです(ちなみに「河豚」は、フグですね)。
イルカは、クジラ目ハクジラ亜目に属するクジラの仲間で、4~5m程度以下の小型ハクジラ類の総称です。しかし生物分類上では、クジラとイルカの間に明確な境界はありません。日本ではクジラとイルカの2つに分けていますが、海外ではイルカがさらにドルフィン(Dolphin;
一般的なイルカ)とポーポイズ(Porpoise;ネズミイルカの仲間)の2つに分かれ、全部で3つに分けられています。
さて「海豚」ですが、これは中国語のイルカを意味する漢字を、そのまま当て字としたのだそうです。中国では、イルカは海に生息する豚に似た生き物ということから、「海豚」となったそうです。中国を流れるアジア最大の大河、長江(揚子江)の中流域には、世界で4種が確認されている淡水性のイルカの内、ヨウスコウカワイルカ(学名:Lipotes vexillifer)が生息するため、「江豚」とも表現されるようです。
次に紹介するのは、イサキです。以前にも登場(海の豆知識Vol.36、Vol.70)したイサキですが、今号にも登場です。
イサキ(学名:Parapristipoma trilineatum)は、スズキ目イサキ科に属する魚で、本州中部以南から南シナ海にかけた外洋に面した磯や沿岸近くに生息しています。体長30cm程度の細長い紡錘形の体は、成魚では全体的に青灰色で、背側がややオリーブがかった褐色しています。しかし幼魚や若魚では、やや明るい茶色で背側に濃い褐色の縦縞模様があります。その姿が、イノシシの子供(ウリボウ、瓜坊)に似ていることから、各地でウリボウ(ウリンボウ)やイノコなどと呼ばれています。ちなみに縞模様は、陸で暮らす元祖ウリボウと同様、成魚になるにつれて薄れて、消えていきます。
海底に降り積もるプランクトンの骨格 |
みなさん、海底には大昔から現在までのプランクトンの骨格が化石として大量に保存されていることを知っていますか?
1ミリにも満たないプランクトンは食物連鎖の根幹に位置し、海洋生態系を支える重要な役割を担っています。植物プランクトンは光合成により自身の体を構成する有機物を生成し、動物プランクトンの餌となります。そして、動物プランクトンは小さな魚からクジラまで、より大型の生物の餌となります。プランクトンは生きているときは海中を浮遊していますが、死ぬと糞粒や他のプランクトンの死骸と結合し、大きな粒子となって沈降します。海中を沈降する様子がまるで雪のようであることからこれらの粒子はマリンスノーと呼ばれ、中層や深層に生息する生物の貴重な餌となります。捕食や分解を免れたマリンスノーの一部は海底に降り積もり、海底堆積物となります。
マリンスノーに含まれるプランクトンの死骸のうち、海底堆積物として保存されるのはケイ酸質や石灰質といった鉱物質のプランクトン骨格です。これらは1ミリにも満たない微小な化石であり、総称して微化石と呼ばれます。微化石の中で最もポピュラーなものがケイ酸質の骨格をもつ珪藻と放散虫、そして石灰質の骨格をもつ有孔虫と円石藻です。特に遠洋ではこのようなプランクトンの微化石が海底堆積物の大部分を占めます。
この微化石、実は過去の環境の推測や地層の年代特定に重要な役割を果たしているのです。
(中央研究所 海洋環境グループ 池上 隆仁)
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