海の豆知識Vol.76  

イラスト:シイラとひまわり畑

魚のことわざ-その61-

---シイラ---
 海とその生物にまつわる諺や格言についてお話ししましょう。
 今回は、シイラ(スズキ目シイラ科シイラ属、学名:Coryphaena hippurus、英名:Common dolphinfish)をご紹介します。シイラは、全世界の熱帯から温帯域の暖かい海に生息する大型魚で、成魚では体長2m前後まで成長します。主に沖合の表層を遊泳し、流木や流れ藻などの漂流物のかげに集まり、群れをなす習性があります。体は細長く、非常に側偏(左右に平たい)しており、成熟したオスの額は著しく高く盛り上がっています。鋭い歯を持つ肉食魚で、イワシやトビウオといった小魚やイカなどを餌としており、海面付近の餌を追って、海面からジャンプすることもあります。
 関東ではあまり食されることの少ないシイラですが、山陰や四国、九州では人気が高く、赤身魚※でありながら、ほんのり桜色をしたその身は、刺身で食べると淡白でありながら、もっちりとした脂を感じます。また、バターや油との相性がよく、フライやムニエルにすると非常に美味です。ハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれ、ステーキやフライとして人気の高い高級魚です。マヒマヒとはハワイ語で「力強い」という意味で、釣り上げる際の引きの強さから、その名がついたようです。
 先ほどもお話ししたとおり、シイラは漂流物のかげに集まります。その習性を利用した漁法が、「シイラ漬漁業」です。シイラ漬漁業は沿岸漁業の一つで、長さ4~8m程度の孟宗竹を数本~数十本束ねた漬と呼ばれる漂流物を模した漁具を海面にいくつも設置し、漬に集まったシイラを餌(曳き餌や撒き餌)によって漬から離した後、まき網で漁獲する漁法で、対馬暖流域の九州から山陰にかけておこなわれています。特定の魚種の習性を利用したこの独特な漁法は、古くからおこなわれており、魚の習性を知りつくした漁師さんの知恵と工夫の結晶といえるでしょう。
※余談ですが、「赤身魚」と「白身魚」の違いをご存知ですか?白身魚と赤身魚の違いは、筋肉に含まれる酸素を運ぶ働きをする赤い色をした色素タンパク質、ミオグロビンやヘモグロビンの量によるものです。これら色素タンパク質は赤い色をしているため、身(筋肉)が赤く見えます。
  赤身魚は主に回遊魚で、常に動き続けているものが多く、持久力が必要、つまり、筋肉により多くの酸素を運ぶ必要があるため、筋肉中にミオグロビンやヘモグロビンが多く含まれています。一方、白身魚は回遊しない魚種が多く、敵から逃げたり、獲物を捕まえたりする時以外はあまり動かずにじっとしていることが多いため、持久力よりも瞬発力が必要であり、筋肉中のミオグロビンやヘモグロビンも多くありません。
  マグロやカツオに代表される赤身魚ですが、今回のシイラをはじめ、サバやアジ、イワシ、サンマなども立派な赤身魚です。ちなみに、サケも身が赤いので赤身魚と思われがちですが、身が赤いのは餌となるオキアミ類などの甲殻類に豊富に含まれるアスタキサンチンという赤い色素によるもので、白身魚に分類されます。

イラスト:シイラと釣り人の戦い鱪の鉤外し
 シイラは餌を見付けるといきなり食い付いて来るから極めてハリに掛かりやすい魚。一方、ハリ外しが巧みだから油断は禁物。釣り糸を手繰ると自分の方から泳ぎ寄って来て釣り糸を緩め、水面に飛び上がって反転し、落下するときに強く頭を振ってハリを外す。誰に教わったかシイラ共通の動作という。

黒潮の使者
 魚偏に暑いと書く鱪のこと。文字通り夏が旬で、夏になると日本の近海に大挙して押し寄せ、秋になると南海へ帰っていく。大きな群れで回遊することからマンビキ(万匹)、クマビキ(九万匹)とも呼ばれている。

二階堂清風編著「釣りと魚のことわざ辞典」東京堂出版より転載。

ご迷惑をおかけします(4)ムラサキイガイ

 不本意ながら、人間活動の迷惑になってしまう海生生物、今回はムール貝の名でお馴染みのムラサキイガイを紹介します。日本にみられるムラサキイガイには、地中海からの外来種であるムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)と北海道や千島列島にもともと生息しているキタノムラサキイガイ(Mytilus trosslus)の2種類がいます。彼らは、左右2枚の殻の隙間から足糸と呼ばれる丈夫な糸を出して、海岸構造物や岩礁などに強固に張り付き、水中の植物プランクトンや有機物を濾し取って食べています。しかし、海上に設置された生け簀、カキ養殖棚、ブイなどの漁業施設、船底、発電所取放水路の内壁や熱交換器の細管内などにも張り付くことも多く、運悪くムラサキイガイの生育に適した条件では、大量の貝が密集して張り付き、漁業、海運、発電の妨げとなることがあります。これまでムラサキイガイなどの付着防止に有機スズ化合物を塗布してきましたが、その毒性や影響が強く、世界的に使用が禁止されたため、滑りやすさや凸凹によるくっつき悪さを利用した表面塗装や微弱電流による付着防止が使われるようになりました。しかし、付着をゼロにすることは困難で、ムラサキイガイなどの付着生物との共存には、苦労が絶えません。

(中央研究所 海洋環境グループ 眞道 幸司)

ムラサキイガイ
(殻の長さ1㎝、1才)
  足糸を出して水槽の壁面に
張り付く様子

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